「睡蓮鉢と帰ってきた家族」~満月の本屋の小さな物語~

「水」のレメディが呼び寄せた幸せ

かわいた冷たい風が 頬をなでる
12月の夕暮れ時。

愛犬のチャッピーを連れて
いつもの散歩道をゆく
女の人の姿がありました。

寒さのせいか 少し首をすぼめ
どこか寂しそうな後ろ姿。
まだ そんな年ではないのに
初老の気配を漂わせていました。

歩きながら 彼女の頭の中には
さまざまな心配事が
浮かんでは 消えていきます。
周りの景色など 目に入りません。

(子供たちは 元気でやっているかしら?)
(今年の年末は 帰ってきてくれるかしら?)
(もう何年も顔を見ていないわ)
(連絡くらいくれればいいのに…)

いつしか、彼女は散歩道をそれ
森の中の小道へ。
チャッピーは はしゃぎながら
彼女を引っ張り 森の奥へと進んでいきます。

小道の脇の木々には
ランプの光がゆらゆらと やさしく揺らめき
道案内をしてくれているようです。

しばらくすると、道の先の開けた場所に
「満月の本屋」がありました。
窓からもれる やわらかな光があたりを照らし
その明るさで
彼女はようやく 顔を上げました。

「あら、道を間違えてしまったのね」
チャッピーは足元で嬉しそうに はね回っています。

「こんなところに本屋さんがあるなんて…」
知らなかったわ、と驚きながら
吸い込まれるように 入口の扉を開けました。

「カラン、コロン」
チャイムがお店の中に 鳴り響きます。

「いらっしゃいませ、ようこそ満月の本屋へ。」

奥から出てきた店主は、チャッピーを見ると
「お連れさまもご一緒に、どうぞ。」
そう言って二人を 中へ招き入れました。

暖かな店内には インテリア雑貨が並び
周囲の壁の本棚は
天井まで 本で埋め尽くされています。

「お待ちしていましたよ。」
店主は二人を 奥のソファへ案内しました。

「どうして私たちのことを?」
彼女は聞き返しましたが、
店主はにっこりと 微笑んだだけでした。

テーブルには、湯気の立つ紅茶とクッキー。
床のお皿には
犬用のお菓子も 用意してあります。

彼女は、不思議そうな顔をしながら
ソファに座り
紅茶を一口いただきました。

紅茶の香りと温かさ
そしてクッキーの美味しさに、
日常の心配事で キュッと硬くなっていた心が
ほどけていくのを感じます。

店主はゆっくりと話し始めました。

「実はあなたのお家、見させていただきました。」
「えっ!?一体どういう…」
大きな声を出した拍子に
彼女は危うく 紅茶をこぼしそうになりました。

そんなことはお構いなしに
チャッピーは しっぽを振りながら、
夢中でカリカリと お菓子を食べています。

店主はテーブルの上に 白い紙を広げ
3×3の9つのマス目と数字を
さらさらと書き始めました。

「ここに問題のエネルギーがあります」
そう言って、真ん中のマス目を指さしました。

「人が去っていくエネルギー。そのせいで、
 お子さんたちも 家に帰ってこないのです。」

彼女は、
暗号のような数字を眺めながら
不安そうにたずねました。

「それでは、どうすれば良いの?」

店主は、少し考えてから言いました。
「メダカはお好きですか?」

「はい、生き物は好きですが…」

それは良かったとうなずきながら
「では、小さな池をこちらに。」
店主は、白い紙の上をトントンと指さしました。

―――

店内のインテリア雑貨の片隅に
陶器の『大きな睡蓮鉢』がありました。

店主は ひょいっと軽々持ち上げて
彼女のそばへ運んできました。
よく見ると、プラスチック製の睡蓮鉢。

「あなたに差し上げます。」

和風の落ち着いた色合いで、
彼女の家の雰囲気にピッタリです。

「白い砂利と、水草、メダカ。
 水はたっぷりと入れてください。」
店主が作り方を 説明してくれました。

彼女は『大きな睡蓮鉢』を見つめて言いました。
「これで小さな池を作るのね。」

半信半疑ではありましたが、
少しでも可能性があるのなら
試したみたいと思いました。

―――

次の日、彼女は「満月の本屋」で教わった通り
『大きな睡蓮鉢』で小さな池を作りました。

場所は、店主の指さした玄関の横。

メダカが泳ぐ姿を しばらく眺めていると、
家の中に置いた携帯電話の 鳴る音がします。

あわてて戻ると、電話から懐かしい声。
「母さん、お正月は実家に帰ろうと思うんだけど、いい?」

その年のお正月は、家族みんなで集まり
賑やかな時間を 過ごすことができました。

もちろんチャッピーも、大はしゃぎ。

玄関横の睡蓮鉢では、
メダカが静かに泳いでいます。

―――

これは「満月の本屋」で起きた
小さな幸せの物語。

この物語の風水レメディ解説は、また次回。

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